毒のないフグは共食いなどの異常行動を引き起こす


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フグが致死性の高い毒を持っていることは有名だ。フグ毒は主にテトロドトキシンで,致死量は成人で0.002mg程度。前回の記事で紹介した青酸カリの850倍もの毒性があるといわれている。毒性の強いメフグの卵巣やクサフグの肝臓では2g程度で致死量に相当するほどのテトロドトキシンを含んでいる。また,フグ毒はテトロドトキシンだけでなく微量のサキシトキシンを持ち,種によってはパフトキシンを持つ。>

テトロドトキシンは本来フグが持っている毒ではない。海洋細菌が産生したテトロドトキシンがプランクトンからヒトデや貝類など次々と生物濃縮されてフグの体内へと蓄積されるのだ。他にも生物濃縮によってテトロドトキシンを持つものにヒョウモンダコやスベスベマンジュウガニが存在する。

フグが生物濃縮によってテトロドトキシンを獲得すことは実験でも確認されており,テトロドトキシンを含まないエサを与え続けた養殖のフグは毒を持たないことが知られている。しかし,興味深いことに毒を含まないエサを与えられ続けたフグには共食いなどの異常行動が見られるという。また,養殖された無毒なフグの集団に天然のフグを入れると養殖されていたフグも毒性を持つことが確認されている。

蓄積される場所は主に肝臓や卵巣で,フグの調理には免許が必要だが,フグ毒による食中毒は厚生労働省によると年間約30件も発生しており,患者数は約50名でうち数名が死亡するという。主な原因は免許を所有していないにも関わらずフグを調理した場合が多いが,稀に免許所持者でも事故を発生させることがある。フグ毒は肝臓や卵巣だけでなく,種類によっては皮や筋肉にも存在するので無免許でのフグ調理は大変危険である。
フグ毒による食中毒の症状は唇や舌,指先のしびれにはじまり,徐々に全身の運動麻痺や呼吸困難に陥り,最終的に意識障害や呼吸筋麻痺を起こし死に至る。

もし食中毒と見られる症状が発生した場合の処置としてはすぐに救急車を呼び,なるべく早い段階で吐かせる必要がある。これは,咽頭や呼吸筋にまで麻痺が及んでいる場合は吐物により窒息してしまう危険性があるからだ。
現在,フグ毒に有効な解毒剤や拮抗剤は発見されておらず,なるべく早急な処置を行うことが生存率を高める。しかしながら,石川県では2年以上塩漬けや糠漬けにして毒素を消失させた卵巣が郷土料理として食べられている。しかし、なぜ毒素が消失するかについての詳細な機構は現在でも明らかになっていないという。
フグ毒については解毒薬や拮抗薬と共にまだまだ解明されていないことが多く,今後の研究が待たれる。

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